研究内容

転位の量子構造と物性

  

 転位とは結晶中の原子配列が不連続になった線状の格子欠陥です。転位芯(コア)においては結合欠損が規則的に存在しており、コアの周囲には弾性的なひずみ場が生じています(図1)。


図1

 結晶の塑性変形はこうした転位の連続的な運動によって起こります。すなわち、結晶性材料の機械的特性を理解するに当たって、転位の構造と物性を明らかにすることはきわめて重要な課題です。また、転位芯近傍における線状の結合欠損列ならびに局所ひずみ場は、規則配列に起因する結晶の基本物性が変化する特異点(線)です。つまり、転位はそれ自身が特異物性を有する究極かつ最小の量子細線であるとも言えます。さらに、こうした結合欠損やひずみ場により異種元素が引きつけられたり(コットレル効果)、拡散速度が速くなること(パイプ拡散)が知られています。このような転位特有の現象を利用すれば、既存材料に新しい物性を付与した材料を生み出すことができます(図2)。


図2

 既存の元素種数は限られており、次世代の物質戦略においては、元素配列制御による物質の新機能開拓が不可欠となってきています。そこで、転位を利用した元素配列制御と転位の高機能量子細線化を目指して、転位の量子構造や運動、他元素との相互作用に関する研究を行っています。


参考文献
・Nakamura et al, Acta Mater. Vol.50 pp.101-108 (2002).
・Nakamura et al, Nature Mater. Vol.2 pp.453-456 (2003).
・Nakamura et al, Acta Mater. Vol.53 pp.455-462 (2005).
・Shibata et al, Science Vol.316 pp.82-85 (2007).
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・Tochigi et al, Acta Mater. Vol.60, pp.1293-1299 (2012)
・Nakamura et al, J. Mater. Sci., Vol.47 pp. 5086-5096 (2012).