研究内容

高性能イオン伝導体の伝導機構の精密解析

  次代のクリーンエネルギー社会へ向けて、電力貯蔵システムである電池(燃料電池やリチウムイオン二次電池)の高性能化が望まれています。 その中で、高速でイオンのみを選択的に伝導させる電解質は、電池性能を決める重要な要素のひとつです。

  電池は、電気エネルギーと化学エネルギーの変換装置とみなすことができます。 例えば、燃料電池では、水素と酸素から自発的に水ができる反応を利用しますが、単に両者を直接混ぜ合わせれば、水素の燃焼反応が起こり熱エネルギーに変換されてしまいます。 一方、水素と酸素をプロトン伝導体もしくは酸素イオン伝導体を介して反応させれば、外部回路から電気エネルギーを取り出すことができます。 図に、プロトン伝導体を電解質として用いた燃料電池の仕組みを示します。 電解質の左側から水素ガス、右側から酸素ガスを供給すると、まず、水素が左側の電極(アノード)でプロトンと電子に分かれる反応が起こります。 プロトンは電解質を通って反対側の電極(カソード)へ移動しますが、電解質を通れない電子は、外部回路を経由してカソードへ流れ込むことになります。 カソードに到達した両者は、そこで初めて酸素と出会い、水が生成します。 このように、電子を通さず目的のイオンのみを通すイオン伝導体は、燃料電池だけでなくあらゆる電池にとって不可欠な材料です。





図.プロトン伝導体を用いた燃料電池の模式


  電解質には、イオン伝導性の点で有利な液体を用いることが多いですが、液漏れや有機溶媒の発火といった危険性のない固体電解質の開発も精力的に進められています。 我々の研究室では、固体中のイオンがどこに存在し、どういった経路を通って移動していくのかを、理論計算を用いて研究しています。


図.正方晶LaNbO4中におけるプロトンの
酸素イオン間ホッピング経路(黒色小球0 ~ 8)

  図は、ノルウェーの研究グループと明らかにした正方晶LaNbO4中のプロトン伝導経路です。 一般に、酸化物中のプロトンは酸素イオン付近に存在し、その周りの回転と近接酸素イオンへのホッピングを繰り返しながら移動していきます。 図の黒色小球で示された0 ~ 8の経路は、酸素イオン間のホッピングに対応し、この結晶中の長距離伝導の律速過程です。 このような原子レベルの描像は、イオン伝導材料の設計指針を与えてくれる重要な知見となります。

(H. Fjeld、 K. Toyoura et al.、 Phys. Chem. Chem. Phys. (2010).)