研究内容

バイオセラミックスの材料設計および合成

 私たちの体の内部構造や、日常生活の基になっている身体活動のしくみにおいて、実は材料科学や電子論が関係しているところがたくさんあります。

 例えば、生体の骨や歯を構成しているのは、カルシウムのリン酸塩の一種であるハイドロキシアパタイトという化合物です。 高齢化社会で需要が多くなってきた人工関節や人工骨で主役となっているセラミックスです。 しかし、これが生体内環境に置かれたとき、どのような構造変化を起こすのか、もともと体に含まれる骨や歯とうまく結合するのはどのようなミクロな現象が関係しているのかなど、無意識のうちに私たちの体の中で起こっている現象でもきちんと解明されていないことが多くあります。
  当研究室では、このようなバイオセラミックスに対して、理論計算やそれと連携した実験研究を行い、新しい生体材料の材料科学を確立することを目指しています。


ハイドロキシアパタイトの結晶構造      Ca2+空孔の計算構造

 アパタイトはリン酸カルシウムの一種で、生体内のカルシウムイオン(Ca2+)の貯蔵庫です。 神経伝達にも重要な役割をするCa2+が不足したとき、アパタイトから供給されるなど、生体機能と深く関係しています。 右図はCa2+が抜けたあとのアパタイト中の原子配列を示し、本研究により、体液中の水素イオン(H+)がアパタイトに侵入することでCa2+の欠損ができやすくなることがわかりました。 骨だけでなく歯のエナメル質もアパタイトでできていますが、虫歯ができるときのメカニズムも同様に考えることができます。


Pb2+を固溶したアパタイトにおける電子密度分布図


 アパタイトは、イオン交換により多様な異種イオンを結晶内部に取り込むことができることが知られています。 この図は、Pb2+がCa2+とイオン交換したときの電子密度を計算した結果で、Ca2+周囲には見られない特徴的な電子分布(黄色部分)がPb2+周りにあることが観察されます。 計算の結果、この状態にあるPb2+は非常に安定であることがわかりました。Pb2+は生体毒性の高いことで知られていますが、このように生体中のアパタイトに蓄積されてしまうことが毒性の高さと関係していると考えられます。
(Matsunaga, Phys. Rev. B(2009); J. Am. Ceram. Soc.(2010)-feature articleなど)