◆科目名:半導体材料学
     
    ◆科目区分:専門科目
    ◆必修/選択:選択必修
    ◆授業形態:講義
    ◆単位数:2単位
     
    ◆開講時期:3年 前期
    ◆授業時限:水曜日 2時限( 10:30 〜 12:00 )
     
    ◆担当者:竹田 美和(工学研究科 材料機能工学専攻)
     9号館 419号室,Tel:789-3363 ,takeda@numse.nagoya-u.ac.jp
      URL: http://mars.numse.nagoya-u.ac.jp/f6/staff.html
     
    ◆問合せへの対応:事前に電話かメールで時間を打ち合わせる。

    ◆授業のねらいと内容:
       半導体は金属と絶縁体の中間の導電率を示すのみならず、同じ半導体であっても数桁に渡って導電率を変えることができ、また、電気を運ぶのに電子だけでなく、正の電荷を持つ正孔が電子と共存し、その相対密度も自在に変化できる、といった特徴を持つ。我々の身近に存在する半導体デバイスは外部からの刺激によって、これらキャリア(電子および正孔)の運動を制御することを動作原理の基本としている。本講義では外部刺激、主に電界により生じるキャリアの輸送現象を説明し、それら現象を起こさせるための基本構造を知るとともに、種々の電子デバイスの原理と動作を理解することを通じて、半導体材料について学ぶことを目的とする。
       具体的には、半導体デバイスを構成する半導体、金属、絶縁体の基本的性質を理解した後、熱平衡状態でのキャリアの分布と性質について学習する。その後、電界や磁界、熱(温度差)を加えるとキャリアの分布がどのように変化し、どのような現象として観測されるかを理解する。半導体電子デバイスでは金属、半導体、絶縁体を組み合わせることによって、ポテンシャルの形状をさまざまに変え、キャリアの輸送を制御している。これら材料の組み合わせによりエネルギー帯構造がどのように変化し、どのような性質が現れるのかを考える。さらに、そのような組み合わせ構造をもったときのキャリアの輸送現象と、それらを用いたデバイスの動作原理を理解する。最後に、キャリア輸送現象を記述するのに基本となる方程式について説明し、それらを用いることによって、定量的な取り扱いが可能であることを学習する。


    ◆授業計画:

      ○第1週:金属と半導体と絶縁体
         本講義のねらいと流れについて説明した後、半導体デバイスを構成する金属、半導体、絶縁体の基本的性質について学習する。

      ○第2週:金属中の電子の分布
         熱平衡状態における金属中の電子のエネルギー分布を取り上げ、フェルミ・ディラックの分布関数と状態密度により記述されることを理解する。

      ○第3週:半導体中の電子の分布 (1)
         半導体における平衡状態での電子のエネルギー分布を取り上げ、キャリアの生成と消滅のつりあいの上に成り立っていることを学ぶ。最初に、運動量空間におけるエネルギー帯構造を踏まえて、電子が帯間励起されることにより正孔が生じ、その結果として電子・正孔対が形成されること、半導体中の電子は自由電子と異なる質量を有することを学習する。次に、理想的に純粋な半導体(真性半導体)におけるキャリアの状態密度と分布関数を用いてキャリア密度のエネルギー分布を定量的に導出する。

      ○第4週:半導体中の電子の分布 (2)
         第3週に引き続き、電子や正孔を供給・捕獲する不純物が意図的に添加された半導体(外因性半導体)における電子分布を取り上げ、不純物の添加によりキャリアの分布が大きく変わることを学ぶ。また、キャリアの生成と再結合に触れ、それがエネルギー帯構造に依存することを学習する。

      ○第5週:固体に電界を加える
         電界印加下での固体中の電子の運動を古典論にもとづき学習し、その問題点を抽出する。一方、仮想的な質量(有効質量)を導入することにより、あたかも真空中の電子と同等に扱うことができることを理解する。また、金属と半導体における導電率の温度依存性を比較し、両者の振舞いの違いを理解する。

      ○第6週:固体に磁界や熱を加える
         固体に磁界を印加することにより生じる現象(サイクロトロン運動やホール効果)について学び、半導体の特性評価に応用できることを学習する。また、温度差に伴う電圧・電流の発生(熱起電力)や、電流に伴う熱の発生・吸収(熱電冷却)について学び、応用例を学習する。

      ○第7週:金属と半導体を組み合わせる
         金属と半導体を組み合わせると、整流性を示す場合と示さない場合がある。これは金属と半導体の仕事関数の大小によって決まる。金属―半導体の接触の基本構造と電子輸送現象、およびそれにもとづくデバイス(ショットキーダイオード、電界効果トランジスタ)について学習する。

      ○第8週:p形とn形の半導体を組み合わせる (1)
         p形半導体とn形半導体の接触でも、金属と半導体の接触と同様に、接触前のフェルミ準位の高さに応じてキャリアの移動があり、両半導体のフェルミ準位が一致した時点で平衡に達する。p-n接合とエネルギー帯構造、および整流特性について学習する。

      ○第9週:p形とn形の半導体を組み合わせる (2)
         p-n接合をさまざまに組み合わせることにより種々の半導体デバイスが構成される。接合の数によってデバイスを分類し、デバイス(p-n接合ダイオード、トンネルダイオード、バイポーラトランジスタ)中の電子輸送現象と動作原理について学習する。

      ○第10週:禁制帯幅の異なる半導体を組み合わせる
         禁制帯幅が異なる半導体の接合では伝導帯や価電子帯のポテンシャル差を利用して、キャリアを閉じ込めたり運動を妨げたりして、キャリアの輸送を制御することが可能である。そのような接合におけるエネルギー帯構造と電子輸送現象、およびそれに基づくデバイス(ヘテロバイポーラトランジスタ、高電子移動度トランジスタ、半導体レーザー)について学習する。

      ○第11週:絶縁体と半導体を組み合わせる
         金属−絶縁体−半導体構造(MIS構造)は半導体デバイスの基本構造の一つである。理想的なMIS構造のエネルギー帯構造と電子輸送現象、およびそれにもとづくデバイス(MOS形電界効果トランジスタ、電荷結合デバイス)について学習する。

      ○第12週:単体構造のデバイス
         単体構造のデバイスとは、金属、半導体、絶縁体などを組み合わせるのではなく、半導体自体の基礎物性そのものを用いるデバイスを指す。各種デバイス(サーミスタ、ガン効果ダイオード、ホール素子、熱電素子)の動作原理を学習し、その特性を定性的に理解する。

      ○第13週:電子輸送現象の基本方程式
         これまでに物理的機構を中心に定性的に理解してきた電子輸送現象を定量的に取り扱う。その基本となる方程式である、ボルツマンの輸送方程式、ポアソンの方程式、電流密度の式、連続の式、および拡散方程式を取り上げ、その導出を行う。

      ○第14週:ボルツマンの輸送方程式−導電率
         ボルツマンの輸送方程式は、外力によるキャリアの運動を表す方程式であり、たとえば、電界によるキャリアの移動度や速度、磁界と電界によるホール効果、温度勾配による起電力などの基本的な現象・効果を定量的に表すことができる。ここでは、固体中で、エネルギー分布をもつキャリアの電界による移動、すなわち、電気伝導がボルツマンの輸送方程式を用いて、どのように導かれるのかを学習する。

      ○第15週:定期試験
         筆記試験によって講義内容の理解度を試験する。
         テキスト、配布プリントと手書きのノートの持ち込みを認める。


    ◆バックグラウンドとなる科目:
       数学1 及び演習,数学2 及び演習,電磁気学 A,結晶物理学,量子力学 A,材料物性学

    ◆教科書:
    • 応用物性:佐藤 編(オーム社)

    ◆参考書:
       特に定めない。

    ◆成績評価の方法:
       講義で行うレポート・3回(30%)
       定期試験(70%)
      全体で55%以上のポイントを獲得した学生に単位を認定する。