名古屋大学大学院工学研究科 物質プロセス工学専攻
   宇佐美・黒川・伊藤・勝部研究室

   

エネルギー・環境問題や新産業創製といった社会的課題の解決には、太陽電池の地球規模での拡大を可能とする革新的な結晶の開発や、新奇な物性をもつナノ材料開発、従来にない機能を持つ光・電子デバイスの実現などのブレイクスルーが必要です。
本研究室では真に社会貢献を行うことを見据え、太陽光発電・エレクトロニクス産業の基盤材料であるシリコンとシリコンと整合性のよい材料を、スケールにとらわれずバルクからナノまでを対象に研究しています。

1. 太陽電池用超高品質シリコンインゴットの研究 

太陽電池市場をリードするシリコンバルク結晶太陽電池の高効率化は太陽光発電の普及に対して即効性のある緊急課題です。私たちは、結晶成長過程における欠陥発生メカニズム、太陽電池製造プロセスにおける不純物の挙動や電気的特性への影響などを、複雑な多結晶組織をモデル化する独自の基礎研究手法により追究します。得られた知見を活用し、太陽電池材料としてのポテンシャルを最大限に引き出すことのできるバルク結晶のミクロな多組織組織・ナノスケールの欠陥・不純物の設計と制御を行い、超高品質シリコンインゴットの低コスト成長技術の開発と高効率太陽電池の創製を目指します。

2. シリコンヘテロ接合太陽電池に関する研究 

半導体デバイスには、p型半導体とn型半導体を接合したp-n接合や、金属や半導体を接合する金属-半導体接合といった多数の接合が存在しています。半導体材料そのものが高品質であることだけでなく、この接合界面の高品質化も半導体デバイスには大変重要です。半導体材料の接合をヘテロ接合と呼びます。たとえば下図は、HIT型と呼ばれる結晶シリコン(c-Si)太陽電池の構造であり、p型、i型、n型の水素化アモルファスシリコン(a-Si:H)と透明導電膜(TCO)と金属電極から構成されています。多数のヘテロ接合界面が存在していることが分かります。宇佐美・黒川研究室では、次世代太陽電池の要素プロセス技術の確立と、さらにその先の理想シリコン結晶太陽電池の基盤技術構築への貢献を目指し、新規ヘテロ接合材料についての基礎研究を実施しています。

3. ナノ構造を利用したエネルギーハーベストデバイスに関する研究

シリコンはナノスケールになるとこれまでにない物性を有することがわかっています。シリコンの表面に光の波長程度(数百ナノメートル程度)のサイズの凸凹(フォトニックナノ構造)を作製すると光が強く散乱され、シリコンの光吸収を向上させることができます。シリコンが10ナノメートル以下のサイズになると量子効果により、その物性が変化し、光の吸収域や熱伝導のしやすさに変化が生じます。これを利用し、太陽電池や熱電変換デバイスの高効率化を目指しています。

4. シリサイド薄膜の成長技術開発と応用に関する研究

 
金属とシリコンの化合物であるシリサイドはシリコンとは異なる物性をもっています。バリウムシリサイドは化学的安定性と原料の省量化が両立可能で、光劣化のない薄膜太陽電池材料として注目されています。マグネシウムシリサイドは熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電デバイスとして注目されています。私たちは量産技術との整合性に優れた真空蒸着法をベースにこのようなシリサイド材料の研究しています。

5. Wafer-equivalentなSi系薄膜結晶の成長技術開発

 
低コスト・大面積基板上にSiバルク基板結晶と同等な品質の薄膜(Wafer-equivalentな薄膜)結晶が実現できれば、ディスプレイと集積回路の融合や、建材一体型太陽電池など多様な応用が期待されます。ガラスを溶融しない低温で平衡状態に近い成長が実現できる金属誘起結晶化法をベースに、結晶化駆動力や界面エネルギーを制御する異種元素利用と、結晶成長過程のその場観察を組み合わせて、新たな結晶成長技術の開発を目指します。

6. 量子計算機用シリコン同位体薄膜に関する研究

量子コンピューターは、量子力学の性質を利用して、従来のコンピューターはもちろんスーパーコンピューターをも遥かに超える高速計算が可能であり、注目されています。量子コンピュータでは0と1という状態を表すのに量子ビットを用います。私たちはスピン量子ビットに注目しています。電子スピンや核スピンを量子ビットとして用いる方法です。スピン量子ビットの状態をできるだけ長く保持することができれば、量子コンピュータへの応用の道が開けます。私たちはそれをデバイス作製のアプローチで研究を進めています。

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