このタイプの酒の誕生地は、フランスのロレーヌ地方。18世紀、ニオイスミレの香りを溶かし込んだ酒をつくり、パルフェ・タムール(Parfait amour/完全な愛)と名付け、媚薬的効果をPRしながら売り広めた。当時は飲む側にもそれを喜んで受け入れる風潮があった。はじめは、色も、紫、赤、黄と様々だったが、結局セクシーな色合いの紫色のパルフェ・タムールだけが残るようになった。
19世紀にはいると、知的階級の間で媚薬的オーラを振りまく酒名が嫌われるようになり、新たにニオイスミレの色と香りを強調したクレーム・ド・ヴァイオレット/Cre'-me de violetteが生まれた。
1890年代には、アメリカのフィラデルフィアのジャカン社/Jacquinが、イタリアのパルマ産のニオイスミレを使った、紫色のクレーム・イヴィット/Cre'me Yvetteというリキュールを発売した。イヴィットは、ロートレックの絵のモデルにもなったパリのキャバレー女優イヴェット・ジルベール/Yvette Gilbertの名を付けたもの。たちまち、アメリカ女性の人気酒となった。そして、これを使って生まれた人気カクテルが「ブルー・ムーン」である。
こうして見てくると、パルフェ・タムール≒クレーム・ド・ヴィオレット≒クレーム・イヴィット、と結論づけてもいいわけである。
これらの酒は、「スミレの花の色と香りを移し取った酒」と説明されることが多いが、スミレの花には白もある。だいいち、日本のスミレは50種類あるし、世界中ではその数300種に及ぶという。
リキュールに使われるのは、そのうち西洋産の無茎種で、園芸用に使われているニオイスミレ(スイート・ヴァイオレット)である。その花弁抽出液に、オレンジ、レモンなどの柑橘系果皮、コリアンダー、ビターアーモンド、バニラ、クローヴ、シナモンなどを配合し、中性スピリッツ、水、シロップ、着色料を添加して、ラヴェンダー・ブルーの魅力的な色彩で製品化する。
現在発売されているこの種のリキュールを見ると、パルフェ・タムールと称しているものは、各種香味がまろやかに溶け込んでいるのに対し、クレーム・ド・バイオレットと称しているものは、ニオイスミレの香りが支配的で、ハーブ種としての性格が強い傾向にある。