13. 現在の研究
マグネシウムは溶銑予備処理における脱硫剤として非常に有効であることを知られている。しかし、マグネシウムは高価であり、反応効率が高くないため、あまり使用されていない。本研究ではマグネシアを還元してマグネシウム蒸気を製造し、溶鉄中に直接吹き込む、効率的な精錬プロセスを開発した。
このプロセスにおいては、マグネシウムの代わり、廉価なマグネシアを使用するため、コストを下げることができる。マグネシアと炭素及びアルミニウムの混合粉末を成形することによりペレットを製造する。このペレットを耐火物製管に装入し、溶鉄中に浸漬する。この浸漬管は溶鉄により加熱され、炭素及びアルミニウムによるマグネシア還元して、その場生成したマグネシウム蒸気を浸漬管の孔から溶鉄中へアルゴンキャリア−ガスとともに直接吹き込み、溶鉄の脱硫実験を行った。本脱硫法においてマグネシウムの分圧と気泡の大きさを制御することにより、マグネシウムの脱硫効率は従来の20%から50%と大幅に向上し、約15分間で硫黄の濃度は500ppmから10ppmまで低下した。これより、低コストで、迅速に極低硫鋼を製造することが可能になった。また、本プロセスにおけるマグネシウム吹き込みは安全であり、発生するスラグ量も大幅に削減することができる。
温度、ペレットの質量、初期硫黄濃度、キャリアーガス(アルゴン)流量、ペレットの分割投入、ペレットの成形圧力及び雰囲気中酸素分圧など操作パラメーターが脱硫プロセスに与える影響を実験的に調べ、特に浸漬管の材質の影響が非常に大きいことを見いだした。
マグネシウムを利用した脱硫に関する速度論的な研究は少なく、脱硫の詳細なメカニズムはまだ不明のままである。本研究では脱硫反応がガス側と液側物質移動の混合律速とする数学モデルを提案した。本モデルによる解析の結果、マグネシウムの脱硫反応が主に気泡界面で起こること、反応の律速段階はメタル中の硫黄の物質移動であることなどを明らかにした。
脱硫プロセスにおけるマグネシウムの挙動の速度論的な研究もほとんど行われていないため、本プロセスにおけるマグネシウムの挙動を詳しく調べ、速度論的な検討も行った。その結果よりマグネシウムの挙動が明らかになっただけではなく、脱硫メカニズムも再確認することができた。また、マグネシウムの脱硫効率、メタル中への溶解度、雰囲気への離脱率、浴表面からの蒸発速度なども明らかにした。
  構築した脱硫反応のモデルに基づき、脱硫プロセスに及ぼす気泡径、浸漬管の浸漬深さとペレットの分割投入の影響を調べた。マグネシウムの脱硫効率を高めるために、各硫黄濃度における最適なマグネシウム分圧を算出した。その最適なマグネシウム分圧に制御したマグネシウム−アルゴン混合ガス吹き込みによる脱硫を行い、非常に高い脱硫効率が得られことを理論的、実験的に示した。また、気泡径を小さくすることができれば、キャリアーガスの流量を抑え、脱硫効率をさらに向上することができる。
以上のとおり、本研究においては、マグネシアの炭素およびアルミニウム熱還元反応を用いてその場製造したマグネシウム蒸気による新しい溶鉄の脱硫プロセスを提案し、実験と理論的な考察により、その脱硫機構を解明した。さらに、Arキャリアガス流量を変化させ、気泡中のマグネシウムの初期モル分率を最適に調節することにより、マグネシウムの脱硫効率を飛躍的に高める新たな方法を提案した。これらの一連の成果により、低コストで、迅速に極低硫鋼を製造する新たな脱硫プロセスの基礎を確立した。さらにこのプロセスの場合、マグネシウムの吹き込みは安全且つ容易であり、発生スラグ量を大幅に削減することができるため、本研究で開発した新脱硫法は実際の溶銑脱硫処理に大いに寄与することが期待できる。