研究室紹介

新しい蓄電池に関する研究

電解液を用いる“電池”から、固体電解質を用いる全固体電池、さらにその先へ!

 スマートフォンをはじめとするポータブル機器の電源の多くに、リチウムイオン電池が利用されています。リチウムイオン電池には有機電解液を用いるのが一般的ですが、この有機電解液を“セラミックスの電解質”に置き換えた 全固体電池 が近年注目されています。
 全固体電池では、可燃性の有機電解液の代わりに不燃性のセラミックス電解質を用います。そのため、電池の安全性が飛躍的に向上します。また、電解液を用いないので液漏れや様々な副反応が抑制されて長寿命にもなります。更に、電池の積層化や高容量材料(Li金属等)が使用できることで、電池のエネルギー密度も高くなります。
 真空管が半導体に、白熱灯がLEDに置き換えられ、デバイスの固体化により社会が大きく変革しました。電池の固体化も社会に大きなインパクトをあたえるものと期待され、次世代電気自動車やIoTデバイスの電源として全固体電池が注目されています。

 高性能な全固体電池を構築するための課題の一つが、界面でのイオン移動反応です。全固体電池は、界面でのイオン輸送の抵抗が大きく、高速に充放電する(=高出入力)ことが難しいことが大きな課題の一つです。
 例えば、電極および固体電解質で構築される全固体電池には、電極−固体電解質のヘテロ界面、固体電解質−固体電解質のホモ界面(粒界)など、様々な固体−固体界面が存在します。この界面で高速にイオンを移動させることができれば、全固体電池内部のイオンはスムーズに動き、高出力な全固体電池が構築できます。一方、界面でイオンを高濃度に蓄積できると、全固体電池の電極容量の向上や固体キャパシターなどへ活用することに有用です。

 このように、界面でイオンを高速輸送・高濃度蓄積することが自在に制御できるようになると、全固体電池のみならず、固体電解質を用いる様々なデバイスへの展開が広がります。私たちの研究室では、固体電解質をキーマテリアルとする界面での“ナノイオニクス”の設計に着目した基礎・応用研究を行っています。

電極活物質/固体電解質界面の課題

電極−固体電解質界面で生じるイオン輸送の抵抗は、一般に電荷移動抵抗(Rct)で評価されます。Rctの中身の因子については不明な点も多いのですが、Rctを低減する指針としてButler-Volmer式を基にした考え方があります。電極活物質−固体電解質の界面では様々な因子が複雑にからみあい、その詳細の解明に向けた研究をすすめています。

接触性

 電解液を用いる場合では、電解液が電極上に濡れることで界面が形成されます。一方、固体電解質を用いる場合では、電極−固体電解質が共にセラミックス材料であるため、界面でイオンが移動するための接触を確保することから考慮することが必要です。これは、上式における活性サイトの数(S)に関わります。Sが大きい、つまり界面でイオンが移動出来る場所がたくさんあるほど、Rctは低減すると考えられます。
 良好な接触を得るために、低融点固体電解質材料や可塑性材料の研究開発が進められています。当研究室では、セラミックスの表面活性を活用する常温接合手法や、固体電解質から電極活物質を電気化学的に形成する“その場形成法”を用いた新しい界面形成法などに着目して、この課題解決に取り組んでいます。

相互拡散

 セラミックスを緻密化する最も一般的な手法は焼結です。しかし、電極と固体電解質は構成元素種と濃度が大きく異なり、焼結の過程で、界面で相互拡散層や反応相が形成され、それらが界面でのイオン移動抵抗を増大させる要因となります。当研究室では、こうした副反応が生じる詳細な機構の解明とともに、界面にイオン伝導性の材料を形成させつつ界面接合する界面制御法にも取り組んでいます。

物理因子

 界面では電子・ホールに加えて有限サイズのイオンが動きます。このイオン移動現象を理解するためには、電気化学ポテンシャルの理解が必要です。当研究室では、界面での電位・イオン濃度分布を計測しやすいモデル電池を構築し、計測を得意とする研究者との共同研究により、この詳細を明らかにする研究を進めています。

酸化物系無機固体電解質上でおこるLi金属の析出溶解反応

 現在のリチウムイオン電池にはグラファイト(黒鉛)が負極として使用されていますが、Li金属は黒鉛の約10倍の理論容量を持っています。Li金属を可逆的に充放電できるようになれば、二次電池のエネルギー密度は飛躍的に向上します。無機固体電解質は、それ自体がセパレータの役目を果たすため、Liのデンドライト成長を抑制できる可能性があります。しかし、現実には、固体電解質の短絡やクーロン効率の低下など、解決すべき課題が山積しています。私たちは、最終的なゴールをLi金属負極の可逆性の向上という点に置きながら、Liの析出溶解挙動を理解するための基礎と応用の研究に取り組んでいます。

全固体電池の実用化に向けた取り組み

 酸化物系無機固体電解質を用いた全固体電池の実用化に向けた研究も(ほそぼそとですが)行っています。現在は、IoTデバイス用電源となりうるフレキシブル全固体電池を常温作製する研究開発を行っており、下記の様に作動する電池を開発できています。

全固体電池に向けた高性能な固体電解質開発を目指して

 全固体電池には高いイオン伝導率や可塑性など様々な性質を高いレベルで実現する固体電解質の開発が欠かせません。我々は様々な合成法を駆使し、酸化物、ハロゲン化物、複合アニオン化合物などを中心に高性能な固体電解質の開発を目指し新物質開発を行っています。
 また、このような新物質開発にはイオン伝導機構の理解も欠かせません。我々はこれまでに高いイオン伝導性を有する固体電解質の単結晶を合成することに成功しました。この単結晶を用いて、精密かつ高度な解析を駆使することで、そのイオン伝導が特異な伝導機構に基づくことを発見しています。
 このように物質合成と精密解析のサイクルにより新材料をデザインし、革新的な固体電解質を開発することを目標として研究を行っています。

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