無機系廃棄物のうち,都市生活によって発生し,有害重金属を高濃度で含有する,都市ごみ焼却飛灰を当初の研究対象とした。都市ごみ焼却飛灰は,Ca,Si系の化合物を主成分とし,重金属として資源的価値のあるZn,Pb,有害であるCr,Cdを含有する。また,Cl分の含有も顕著である。そこで,分離方法として,塩化物は一般的に高蒸気圧であることを利用し,CaCl2 + MO → CaO + MCl2↑のような反応による,塩化揮発分離法を検討した。
これまで,図のような揮発分離メカニズムの解明,また,Pb,Zn,Cdが揮発分離可能なことが判明するに至っている。さらに,より効果的な処理条件の確立をめざし,炭素添加,SiO2添加,SiO2を多く含む廃棄物として建設汚泥の添加により,揮発率の向上を図っている。
ただし,Crに関しては,高蒸気圧を有する適当な化合物がないため,塩化揮発法による分離は困難であることも判明した。現在は,都市ゴミ焼却主灰処理にも着手している。
塩化揮発による分離・除去が困難な成分であるCrについて,自然界に存在する鉱物にして安定化,安全化を図ることを検討した。都市ゴミ焼却飛灰が,多量にCaとSiを含有することに着目し,Ca3Cr2(SiO4)3という組成を有するウバロバイトを安定鉱物の第一候補とした。Cr2O3-SiO2-CaO系状態図において,飛灰におけるSiO2とCaOの組成は,図の赤く囲んだ付近になるが,緑色でハッチングしたウバロバイトの安定領域へ組成を持っていくために,SiO2の添加が不可欠である。このような領域に組成を制御することで,Crの溶出が抑制できることが分かった。
また,Crを含有する無機系残渣は,産業系の種々の製造プロセスからも排出される。これらに対しては,成分は異なるものの,本手法は適用可能であるため,現在,アルミニウム溶解系ダストについても検討を進めている。
なお,本研究は愛知県・名古屋市地域結集型共同研究事業「循環型環境都市構築のための基盤技術開発」,"無機廃棄物の再利用と有害物質の安定化技術の研究開発"の一環として行ったものである。